酒類 丸中
日本酒の出来るまで '01.01.10
麹菌によって生産された酵素が米の成分を徐々に溶かし、それによってできた糖分を酵母菌が取り込んで、最終的にアルコール度の高い日本酒になります。
- 精米
米の表層部に多く含まれるたんぱく質や脂肪は、酒の味わいや香味を劣化させてしまうため精米が行われます。
精米とは玄米の表層部に含まれる、醸造に不必要な成分と胚芽を取り除く作業です。
一般的には磨けば磨くほど香り高い酒になるといわれています。
玄米は一番外側は赤糠に覆われています。
これは専門的には果皮と種皮の部分を一般的に表す言葉です。
この内側に胚乳がありますが胚乳の外表面に蛋白質および脂肪に富む糊粉層に覆われています。
これら赤糠や糊粉層を含む米で清酒を造ると、酵母菌の栄養分過多で発酵が急進したり、タンパク質や脂肪分の分解によるアミノ酸や脂肪酸の増加によって、専門的な言葉で言えば雑味や老香の原因になります。
そのため、玄米は精米によってデンプンの純度の高い白米で清酒を造ります。
精米の度合いは精米歩合で表します。精米歩合は次式によって計算します。
精米歩合=(白米重量÷玄米重量)*100
因みに、玄米100kgを精米機に入れ精米をして白米の重量が70kgになったとすると,精米歩合は(70kg÷100kg)*100=70%になります。
精米の程度は酒の種類によって異なりますが、精米機を用い、丁寧に時間をかけて 、まるで真珠のような輝きを放つまでに米を磨いていきます。
昔は水車でコメをついたから、一、二分搗(づ)き程度にしかできませんでした。
精米機が開発されてからは高精白ができるようになりましたが、今日ではさらに高性能の精米機ができてコメを仁丹より小さい粒、20%近くまで精米できるようになりました。
これが昨今の「吟醸酒ブーム」につながったといえます。
また,その年の気候で米の芯白の位置が変わります。
それだけに精米するときは注意を要するといいます。
きちっと真ん中にあれば、精米機の特別な操作は必要なく、いい精米機だと、すんなりと原形精米(搗製が片寄らず、原形のまま削られ芯白が崩れることなく取り出せる)が出来るそうです。
精米歩合は、吟醸、大吟醸、本醸造など、造りによって異なりますが、70〜35%まで精米されます。
普段、食べている白米は、精米90%です。
70〜35%までに精米するには、特別な精米機が使われます。
堅型式精米機と呼ばれる特殊な精米機で、3昼夜もかけて精米することにより、35%という精米度数が得られるのです。
玄米600kgを22型精米機という代物で精米した場合、75%白米にするのに2時間、70%白米なら3.5時間、50%白米にしようものなら、9時間かかるのだそうです。
この精米という課程は、重要な行程であり、精米を専門にする蔵人を、精米杜氏と呼んでいる蔵元もあります。
精米度数の高い酒として有名なのは、「獺祭(だっさい)2割3分」で、これは、山田錦23%精米で醸された酒です。
また「久保田」で知られる朝日酒造の「得月」は、雪の精を28%まで精米して醸しています。
- 糠
酒蔵では毎日、たくさんのお米を精米して使っていますので、当然、削られた粉、つまり米糠もたくさん出ることになります。
高精米された米糠は、真っ白で、まるでパウダーのようなものですが、いくら元がお米といってもこれはお酒に はなりませんので、蔵としては処分しなくてはなりません。
しかし、ただ捨ててしまうのはたいへんもったいないわけで、きちんと行き先が決まっているのです。
多くは、お菓子メーカーに行き、そこでお煎餅やアラレの原料として使われます。
また、珍しいところでは、野菜の肥料や養鶏のエサにも使われています。
これは、糠というのはとても栄養に富んでいるからなのです。
もともと精米は玄米を削るわけですが、玄米には栄養成分を多く含んだ胚芽があり、さらにお米の表面にもいろいろな栄養分が多くあるのです。
お酒造りには、そうした成分は邪魔になるのですが、野菜などを育てるときはとても大切なものとなり、そちら方面への需要もあるわけです。
- 放冷
精米後のお米は、まず袋に詰められ、倉庫に入れられることになります。
そこで約一カ月、そのままの状態で放置され、それから実際の造りに使われることになるのです。
これには当然、ワケがあるのですが、その一つが「放冷」という理由です。
精米という作業は、いわば砥石でお米を削っていく作業ですから、そこに摩擦熱が生じて、お米そのものがとても熱くなってしまうのです。
特に、高精米のお米は二日、あるいはそれ以上の時間をかけて精米されますので、その熱さはなおさらとなります。
こうした熱を持ったお米をすぐに造りに使うと、水をどんどん吸収し、とても使い物にはならないため、どうしてもそれを冷ます必要があり、その時間が約一カ月となるのです。
もう一つの理由は、「水分の補給」です。
精米したときの熱によって、お米の中に含まれる水分も蒸発してしまうわけで、ある程度もとの水分状態に戻してあげることが必要となります。
この時の水分補給とは、何も特別なことをするのではなく、空気中の水分を取り入れてやる自然調湿です。
この水分補給を含めて、約一カ月の時間が必要となるのですが、これらはいわば精米後のお米を“落ち着かせる”のが目的です。
- 洗米・浸漬
洗米は米の表面に付着している糠の除去が主目です。
洗米することによって、さらに米の表面が洗い流され第二の精米といわれています。
普通の米を研ぐのとは、かなり方法が異なります。
米に混じった不純物を取り除くいう意味もありますが、米の表面に残った糠分をしっかり洗い落すためにも、重要な行程です。
特に低精米歩合の吟醸酒などをを造るとき洗米やすすぎが不十分ですと酸度が増加するなど大きく品質に影響します。
かつては、水を張った桶に米を入れ、足で踏んで洗うものでしたので、冬の冷たい水で足はひび割れ、血がにじむようなものでした。
その後、手回し式の洗米機が開発され、現在では、機械式の洗米機が開発され、利用されています。
洗米が終わった米は次に浸漬操作に入ります。米に水を吸水させる行程です。
浸漬によって白米は約30%前後の水を吸います。
この作業は、米の水を吸わせすぎても、吸わせ足りなくてもダメで、洗米時に吸水することも考慮に入れ、秒単位で水を吸わせます。
- 蒸米
吸水が終わった米は、甑で蒸されます。
この行程を「蒸きょう(じょうきょう)」と呼ばれます。
蒸きょうの課程は、もっとも重要な行程の一つです。
日本酒に使う麹菌はアルファー型のでんぷんでないと繁殖しません。
また、麹菌の生産する糖化酵素なども、同様にアルファー化でんぷんでないと作用しません。
したがって、浸漬米はよく水を切った後、ベーター型の生デンプンを蒸すことによってアルファー化デンプン(糊化)に変化させます。
また、同時にお酒にとってあまり芳しくないタンパク質を熱変性させ、麹菌に含まれる蛋白分解酵素の作用をさせ難くさせます。
蒸しの目的は前述したようにデンプンのアルファー化や蛋白質の熱変性の他に、麹菌の繁殖に必要な水分を保持させることも重要な役割です。
麹を造るのに一番良いとされる蒸米の状態を内軟外硬≠ニいい、米の外側が硬く、内部になるにつれて軟らかくなる状態をいいます。
技術指導をされている先生の中には、「一に蒸米、二に蒸米、三に蒸米、四五がなくて、その次に麹」と提唱する先生もいます。
蒸米は仕込水と共に酒造りの基本で、麹の出来方、酒母の味の形、醪の香味に重要な影響を与えるもので、酒を造るにあたって最も注意を払います。
米機の下部から蒸気を入れ、米の最上部に蒸気が抜けてから50分程蒸します。
この時の蒸気温度は約102度です。
50分後、蒸し上がった米を取る作業をしますが、蒸米機の下部から下に米を取り出します。
この時米を少量取り、竹でこねひねり餅を作ります。
この餅が紙のように薄く延びるものが良く、ポツポツと切れるものは不十分です。
取り出した米はそのまま放冷機に移り装置の端から端までに行くあいだに冷まされます。
蒸し終わった米は、放冷され、麹の原料となり、または、酒母のもととなり、添えとして仕込みタンクへ投入されます。
- 麹
麹とは、蒸し米に麹菌というカビの一種を増殖させたものです。
放冷した蒸米を室(麹菌を植え付ける部屋)に引き込み麹菌を植え付けます。
日本酒は、麹との出会いから生まれました。
それは紀元前2〜3世紀、稲作が普及し始めた初期とされています。
蒸し米にこうじと水を混ぜておくと、やがてぶつぶつと発酵が始まり酒が醸し出されます。
醸すとは自然に生じると言う意味をもっており、長い間,酒造りは自然現象とみられていました。
麹は蒸し米の表面に麹菌とよばれる黄カビを繁殖・培養させたものです。
清酒造りにおいて、こうじ菌は 蒸し米中のデンプンをブドウ糖に変えます(糖化)。
さらに酵母が糖分をアルコ−ルに分解し、清酒を造りだします(発酵)。
酒造りの中で麹は大きな影響を持つもので、麹の出来の良し悪しが、酒の出来の良し悪しにつながると言ってもよいものです。
蒸し米に麹菌が付着して菌糸が発育すると白くなります。この部分は破精(はぜ)と呼ばれます。
菌糸が表面を覆うように発達し、また、内部へも発達したものは、「総破精(そうはぜ)」と呼ばれます。
自動製麹機を使って作った麹は、このタイプになりやすく、酒質は、あまり良いものが得られる ものではありません。
菌糸が蒸し米の表面では部分的に発達し、内部に十分深く入り込んだものは「突き破精(つきはぜ)」と呼ばれます。
こちらは、キレイなふくらみのある酒質をもたらすものなのですが、簡単に得られるものではなく、熟練した蔵人の知識と技術が必要になります。
麹菌が付着したところから、すぅっと米の内部へ菌糸が伸びていくと、まるで、麹米に花が刺さっているように見えます。そのため、「花破精(はなはぜ)」と呼ばれることもあります。
このような優秀な麹を造るためには、良い蒸し米、良い製麹管理が求められます。
製麹室(セイギクシツ)に蒸米を引き込みますが、ここからが温度・湿度・蒸米の状態(硬い・軟らかい)との戦いです。
メッシュ状の穴の空いた缶に麹菌を入れ、蒸米の上部から全体に満遍なく麹菌を振ります。
この作業を「種付け」と言います。
麹菌を振ったあと蒸米全体を混ぜます。
これは物量と温度の均一化のために行います。
種付け作業後、10から12時間経つと麹菌の胞子が発芽を始め、蒸米の内外で変化が起き物量と温度に差が生じてきます。
これを解消するために蒸米全体を丁寧に、しかも温度の下がりをなるべ少なくするようにく満遍なく混ぜ合わせます。
この作業を「切り返し」と言います。
切り返し作業の終了から約12時間程経つと、蒸米の表面に白い斑点んが所々見られます。
この頃になると、品温が2度程上昇し、麹菌の繁殖が加速的に旺盛になり始める時期に当たるので、このまま放置すると発熱が激しく水分の発散が悪くなります。
そこで、これらを防止する為に蒸米を取り込んだ引き込み棚から盛り棚と言われる棚に蒸米を移動し、旺盛な増殖を促進させるとともに破精具合(麹菌が蒸米に繁殖していく程度)や温度の上がり方を調整できるようにします。
これを「盛り」と言います。
盛り棚には約4〜5cmの厚さで蒸米を盛り込みます。これを4段ほど積みます。盛後の品温は1度程下がり当初の品温に近づきます。
盛り後6〜8時間経過すると菌糸の発育も進み品温が1〜2度上昇します。
このまま放置すると蒸米の内外で品温、破精具合にかなり差が出来るため、混ぜ合わせて均一にするとともに酸素の供給、水分の逸散を図ります。
これを「仲仕事」と言います。仲仕事時の品温は34度です。
この作業は室温28〜30度の閉め切った部屋の中で行うため、上半身は当然裸、下半身は衣類を着けていますが下着の中まで汗でグッショリです。
仲仕事後6〜7時間で麹菌の繁殖は一層盛んになり品温は37〜39度となり蒸米もかなり麹らしくなって来ます。
香りも麹独特の芳香が出てきます。
麹菌といえども生き物で生きるために米の栄養を求め米の中に食い込んでいきます。
ここでの作業は仲仕事と同様麹(蒸米から麹に変ってます)を混ぜ合わせ品温・水分の均一化を図ります。
注意するのはこの作業によって下がる品温を1.5度以内に収めるよう手早く・綺麗に・満遍なくおこないます。
仕舞仕事後3〜4時間で製麹工程中最も高い温度になります。
これを最高温度といいます。
この頃になるともうしっかり麹に近づき香気も栗香(栗の香りではなく栗の木の香り)を出すようになります。
この時の最高温度は43度くらい。
最高温度をが来てから3〜4時間後出来上がった麹を製麹室から出し、仕込タンクに移します。
これを出麹と言います。
出来上がった麹は43度の温度でそのまま出すのではなく、放冷し温度を落とします。
そのまま仕込むと当然仕込んだ時の温度が予定より高くなります。
寒冷な場所で自然放冷する方法もありますが、その場合温かいものを急に寒い場所に持って行くため、麹の内部から水蒸気が撥水され麹の表面で凝縮し、雑菌が繁殖する恐れがあるので冷風を送風し15度まで乾燥させて温度を落とします。
温度が落ちた麹を仕込タンクに移しますが、以前は麻布に小分けし何往復もして運んでいました。
今は製麹室から仕込タンクまで15cm程度のホースが通っていてその中をエアーで麹を飛ばして運びます。
- 酵母
酵母は糖分をを発酵してアルコールにする力を持つ微生物で、もちろん清酒を造る主役でもありますが、アルコールだけではなくて、あのすばらしい吟醸香や、味の成分となる酸などの清酒らしい香味をつくり出す菌です。
もろみが発酵して酒になることは数千年前から知られていたのですが、このような現象は自然に「わいてくる」と考えられていました。
微生物の存在自体が知れたのは、オランダのレーベンクックが1680年に、自作のレンズを重ねて造った顕微鏡を使って観察したのがはじめてとされています。
その後19世紀になって、ようやく酵母細胞が精密に観察され、酵母によって糖がアルコールと炭酸ガスに分解されること、つまり発酵の仕組みが初めて分かりました。
現在の清酒酵母は、明治37年に設立された醸造試験所が、全国の銘醸蔵からたくさん酵母を分離して、優良な酵母を選択、培養して選ばれた「協会酵母」が主流を占めています。
このほかにも各県で独自に改良した酵母や、自分の蔵に住み着いている自家製酵母などいろいろな種類が使われています。
- 酒母(モト)
酒母は、アルコールを生成してくれる微生物である酵母を大量に培養したもので、粥状のものです。
このモト(酒母)造りには、いろんな方法があります。
現在、本醸造以上の酒で醸される酒の多くが、「速醸モト」という方法で醸されています。
この他にも、「生モト」や、「山廃モト」、「高温糖化モト」というものなどがあります。
速醸モトの造り方は、まず、仕込みタンクに水を汲み、乳酸、麹、酵母、蒸米を入れて、酒母を造ります。
この方法の利点としては、健全な酵母を純粋培養しやすく、かつ、安全で、一定品質を得やすいことです。
「生モト造り」は、非常に手間がかかり、昔ながらの方法といえます。
これは、まず、蒸米と麹と水だけを半切桶というなかで、木で出来た櫂のような道具で攪拌され、粥状にします。
この作業をモト摺り、もしくは、山卸しと呼ばれます。
半切桶は、仕込みタンクの8分の1のサイズのもので、つまり、一つのタンクを仕込むのに、半切桶での仕込みが8本必要になり、手間が非常にかかるものです。
こうして、造られた粥状のもののなかでは、乳酸が発生します。
乳酸は、雑菌の培養を防ぐものとして必要なもので、これが十分でないと腐ってしまいます。
この腐ってしまうことを腐造(ふぞう)と言います。
そして、健全に乳酸を発生させ、粥状になったものの中へ酵母を投入し、酒母(モト)が出来あがります。
生モト造りの酒は、諸刃の刃のようなもので、経験があり、なおかつ優秀な造り手による生モトの酒は、非常に味に奥行きがあり、力強い酒になります。
そのうえ、造りがしっかりしている生モトの酒は、少々の温度変化や直射日光では、全く味の変化が無いと言います。
逆に、経験の無い造り手の、付け焼刃の技術で作られた生モトの酒は臭みと、ひつこいだけの駄酒になってしまいます。
生モトは、明治以前の時代は、どこの蔵も作っていましたが、大正、昭和と時代を経るにつれ、蔵のほとんどが、速醸モトの造りに移行してしまったため、生モト造りに長けた技術者が激減しました。
美味い生モトの酒を求める際、その酒の蔵元が、15年〜20年以上、生モト造りをしていることが、第一条件でしょう。
「生モト」の中で、「山卸し」という作業を廃したものを「山廃モト」といいます。
「生モト」に比べ、かなり作業労力を軽減することが出来ることが利点として、大きく「生モトを復活させるのは、ちょっとつらいが、山廃なら・・・」という蔵も多く、「山廃」の酒が、最近、増えてきたように思えます。
ところで「生モトもどき」、「山廃もどき」とも言える造りの酒もあります。
速醸モトのように「乳酸」の添加はしないで、「乳酸菌」を添加するものです。
確かに、「乳酸」の添加をしていないのですから、「速醸モト」とは言えないのでしょうが、モトの中から乳酸を生成させるという「山廃」「生モト」と同じとは言えないはず。
しかしながら、その酒は「山廃」「生モト」と表示されているそうです。
- 速醸モト
現在、最も一般的な仕込み法です。
水、乳酸、麹、酵母を入れ、蒸米を投入していきます。
合わせ櫂という行程では、櫂(かい)という道具で攪拌します。
あくまで、攪拌で櫂で米をつぶしません。
また、同時に直径30cmのステンレス製の筒を差し込み中から染み出てくる水麹を周囲に汲み出し、万遍なく振り掛ける作業も続きます。
この時の温度管理も大変で、ここでも暖気樽(「だきだる」と読む。1斗入るアルミや木製の取っ手つきの樽)を使い、醪の中へ入れて動かし、温度を調整します。
この後、いくつかの行程を経て、使用されます。
利点としては、一定品質の酒母が得られやすく、非常に安全な手法です。
- 生モト(きもと)
速醸モトと違い、乳酸を添加しない上,モト摺り(もとすり)という行程が加わります。
非常に手間のかかる行程で、「山卸し」とも言われます。
生モトは、昔ながらの手法であり、速醸モトに比べるとかなり熟練した技術が要求されます。
速醸もとよりコクがあり、時間がたっても味の持ちがいいそうです。
水で割ってもウマミは十分出るくらいといわれます。
- 山廃モト
山廃造りもきもと造りの一種。
正確には「山卸廃止仕込み」といいます。
「山卸し」を行わず、時間をかけて自然に溶け合わせる方法です。
この山卸は、酒造りの工程の中でもたいへんな重労働でしたが、だんだんと醸造の研究が進んでくるうちに、米粒をスリつぶさなくても時間をかければ蒸し米と米麹は仕込み水の中で溶解していく、ということがわかったんだそうです。
そこで、辛い作業だった山卸を廃止して、酒をつくるようになっていって今日の「山廃造り」が誕生しました。
自然に乳酸が精製されるのを待つ山廃は速醸に比べて2〜3倍の手間隙と時間がかかるため非効率的ですが、幅とふくらみある味わいは山廃仕込みから得られます。
山廃特有の酸味とコシの強さは、食中酒としての日本酒の追求の結果でもあるようです。
- 仕込み
麹と酒母が出来上がるといよいよ仕込みになります。
仕込タンク中に酵母(酒母)・麹・水を仕込み発酵させます。
この作業は本仕込の1〜2時間前に行います。
行き成り本仕込で大量の麹・水・蒸米が入ると酵母が驚いてしまい活動が鈍くなります。
そのために蒸米を大量に入れる本仕込み前に水麹を造り酵母を慣らします。
酒母に、麹、水が混合され、水麹と呼ばれるものになります。
普通日本酒の仕込みはこの麹と掛け米(洗って蒸した米)と水をタンクに入れて仕込みますが、一度のに全部入れるのではなく、三段(三回に分けて)で仕込みます。
一回目を「添(そえ)」、二回目が「仲(なか)」、一日間をおいて(これを踊りという)三回目が「留(とめ)」と言い、だんだんと米の量を多くして仕込みます。
総米700kgの仕込みですと、「添」が35kgの麹米と85kgの掛け米と147Lの仕込み水、「仲」が45kgの麹米と195kgの掛け米と313Lの仕込み水、「留」が48kgの麹米と242kgの掛け米と242Lの仕込み水で仕込みます。
仕込み温度は「添」が約13度、「仲」が約8度、「留」が約6度と、だんだんと温度を下げて仕込みます。
「留」を仕込んでから約7日かけて10度から13度の最高温度に到達させます。
この事からもわかるように、日本酒は低温で仕込み、低温で発酵させますので寒い冬にしか仕込むことができません。
最高温度は大吟醸などでは10度ですが、純米酒や本醸造は12度から13度と少し高めにし、米の味を最大限に引き出すようにしています。
大吟醸は10度という酵母にとって生きるか死ぬかの限界で発酵させることにより、あのすばらし吟醸香が出てきます。
もろみの泡は5日目から7日目位が最高に出て、その後自然ともろみの仲に消えていき、消える寸前に玉泡となり、12日目位になるとすっかりと泡がなくなってしまいます。
この泡のなくなった状態を「地」といいます。
その間人間は朝一回だけ櫂入れ(もろみをかき混ぜること)をするだけです。
泡が出てくるとタンクからこぼれてしまうときがあるので「泡がさ」をタンクの上に置いてこぼれないようにします。
それでも泡が高く上がってくるときは泡消し機を使い泡を押さえます。
最近ではこの泡のない酵母もたくさん出てきました。
泡がさをかけたりする手間が必要なので、泡のある酵母はだんだんと使われなくなってきています。
「留」を仕込んでから15日目くらいになると、発酵が進んできますので少しずつ温度を下げていきます。
温度を下げる手段はタンクに巻いたマットに冷水が通りもろみの温度を下げます。
約7日かけて温度を10度から6度まで下げて、もろみの発酵を押さえます。
発酵期間の30日の間、大吟醸は毎日もろみを少量とり、日本酒度、酸度、アミノ酸度、アルコールなどの分析をします。
純米酒や本醸造は二日に一度もろみをとり分析します。
- もろみ
酒母に、麹(こうじ)、水、蒸した米を仕込んだ、日本酒になる前の発酵中のものを醪(もろみ)といいます。
日本酒のもろみは、仕込んで1日ほど経過すると仕込んだ水がすべて蒸米に吸収されてしまい,軟らかい固体となります。
最初、固体状だったもろみは、麹のはたらきで米のデンプンがすこしずつ分解され糖分に変わっていき、同時に酵母により糖分がアルコールに変えられます。
アルコール分が20度程度も出るというのは、世界広しといえども日本酒だけです。
- アル添
日本酒にアルコールを添加するのは、歴史的に新しいことではないのです。
蒸留酒が日本に伝えられたのはかなり昔で,それが清酒に混ぜられたのも江戸時代といいます。
当時は「柱焼酎」と呼ばれた。いわば今日の「本醸造酒」のハシリでもあります。
雑菌の少ない厳寒時に酒を仕込むという「寒仕込」が確立していないため、当時の蒸留酒「焼酎」は清酒の腐敗を抑える働きもしました。
アルコールは腐敗しないだけでなく、殺菌する力も持つ、というメリットがあります。
当然清酒は防腐剤を使いません。
メリットはまだあります。
純米酒だと味が重くなる。アルコールはこれを軽くする働きを持つ。
すなわちノドの滑りをよくする。アルコールばドライであり、辛口になる。
軽くなった分飲み口もよくなるし、よく飲める。
さらに、酒の本来持つ香りがある。
特に吟醸酒は、吟醸香というエステルの香りを持っているため、これが鼻孔に届くまでの「上立香(うわだちか)」を立ち易くする。
これはアルコールに揮発性があるからです。
そして最も大切なメリットは、タンク内で発酵中の酒は心地よく、うまそうな香りを発生しているが、絞るとほとんど粕に移り、酒自体には残らなくなってしまう。
ところが絞る前にアルコールを加えると、粕に移ろうとする香りを引っ張ってくれる。
アルコールを染ませたガーゼで肌を拭くと汚れがとれやすいというのは、アルコールの優れた浸透作用で一度皮膚の組織の中に入り込み、出ていくとき一緒に汚れを外に持ち出す働きをするからです。
これと同じことで、しぼる前にもろみに添加されたアルコールは米の組織の中(特に麹米)に入り込み米の中に隠れている香りを外に引っ張り出す力があります。
つまり、純米だと搾る時に酒の方に来ず、そのまま粕の方に残って行ってしまう香りをアル添は引き出す力があります。
最後にアル添という伝家の宝刀を持っていれば、醗酵途中のコントロールがやりやすく、結果として優れた吟醸酒が造りやすいという側面もあります。
実際、大阪国税局の鑑定官室が管内の杜氏さんの指導のために出した鑑評会金賞受賞マニュアルには「良い吟醸を造ろうとするなら決して純米吟醸を造ろうとしないこと」という指導が入っていました。
いまでも鑑評会の出品酒はほとんどアル添吟醸です。
しかし,この4〜5年で、アル添しなくても、バランスのよい優れた純米吟醸を造る技術が確立されたと言われています。
基本的には麹の製造技術の見直し、酵母の選定、それにあわせたもろみ管理等々です。
このようにアル添にはメリットはたくさんありますが、たった一つ、デメリットがあります。
それはこうしたメリットを利用して、増量剤として使う場合のこと。
味を多く造れば、アルコールはかなり添加しても味が損なわれることはありません。
だから「アルコール添加酒」というシロモノが出現した。
多すぎるモノはプーンとアルコール臭さが漂う。
「酒は臭い」という妙な常識が出来上がったのは、このせいです。
アルコール添加にも、タイミングと添加量の決定には、熟練が必要だそうです。
醸造用アルコールは主にでんぷん質を糖化したものや、廃糖蜜(サトウキビやテンサイ等の糖蜜から砂糖を結晶させた後に残る液)を発酵させた後に蒸留して造られる95%のエチルアルコールであり、いわゆる合成アルコールなどは一切使用されていません。
そこで表示に「醸造」と標記することで合成アルコールではないことを明確にしているのです。
現在では、海外から輸入した粗留アルコールを蒸留精製することが多いようです。
また、焼酎や清酒粕を蒸留したアルコールを使用することもあります。
酒造りの工程のなかで醸造用アルコールを添加するのは「もろみ」を搾る1〜2日前に行います。
理由としては添加してから長く放置すると酒質が劣化するためです。
吟醸酒、本醸造酒に使用できる醸造アルコール量は、白米の重量の10%以下(白米1tに対して100%アルコール116.4L)に制限されています。
しかし、実際にはその上限の半分ほども添加していないそうです。
これは増量が目的ではなくあくまでも酒質を向上させることが目的だからと言えるでしょう。
- 上槽
留の日より数えてだいたい20日〜30日後に「上槽」されます。
上槽(じょうそう、もしくは、あげふね)とは熟成した醪をしぼることです。
これによって、酒と酒粕に分けけられます。
出来あがった醪は、酒袋に入れられて、絞られます。
絞り方には、連続しぼり機で絞る方法と、槽で絞られる方法とがあります。
しぼり始め、圧力をかけないで、一晩ほど放置し、自らの重みだけで、槽口(ふなくち)から流れ出た黄色く濁った酒を「荒走り」と呼ばれます。
「荒走り」のあとに、圧力をかけて出てくる透き通ったきれいな酒は、「中汲み」「中垂(だ)れ」、そして、最後にプレス機で絞り出した酒は「責め」「押し切り」と呼ばれます。
「荒走り」は、薫り高く、甘味、旨みの豊富な部分で、「中汲み」は、バランスの取れた部分とされ、また、「責め」の部分では、えぐみ、苦味などが多くでてくるようです。
もっとも、醪の出来によって、このことが、全てにあてはまる訳ではないようです。
搾る前のもろみの量に対し、搾った後に出る酒粕の量の比率を「粕歩合」と言いだいたい2割〜3割程度です。
- 滓引き・加水
上槽したての日本酒は、まだ、濁っていて、細かい浮遊物が浮遊しています。
これをタンク、もしくは、斗瓶の中で、10日前後、静置すると、浮遊物が沈殿し、上澄みを生じるようになる。そして、下方に沈んだものを取り出す。
この操作を滓引きといい、下方に沈んだものは、滓(おり)と呼ばれます。
こうして、出来あがった透明な酒は、17〜20度という醸造酒では、かなりの高濃度のアルコール度数を持っています。
これを、加熱し、貯蔵し、出荷直前に再び加熱し、水を加えられ、度数を調節されて、出荷されます。
水を加えることを加水と言い、加水を行わないものを原酒と呼ばれます。
- 濾過
滓引きの前後で行い、酒質を端麗にする効果があります。
ただ、酒の臭みを抜き、酒質の悪さを隠すものだという人もいます。
濾過と言っても、いろいろな方法があります。
もっとも一般的に行うものが、活性炭を使うものです。
活性炭を酒の中に投入し、酒を濾過させるものです。
投入する活性炭の量にもよりますが、こうすると、癖の無い平坦な酒になるそうです。
一方、同じ活性炭を使っていても、極力、少量を使うようにしている所もあります。
ここでの濾過の方法は、濾紙の上に薄い活性炭の層を作り、その濾紙と活性炭の層に酒を通すことで、濾過を行うものです。
このような方法を取ると、極めて少量の活性炭を使うだけですので、酒は、本来の個性を残したままの姿でいることができるのだそうです。
活性炭を用いない方法で精密濾過と言うものが有ります。
これは0.4ミクロンの網目の濾紙で濾過を行います。
火入れをして、酵母を殺して酒をその死骸だらけにしたとしても酵母のかけらも残さず、濾してしまうことになります。
- 火入れ
火入れとは、熱殺菌のことです。
その目的は、酒を腐敗させる微生物を殺し品質の劣化を防ぎ、お酒の中に残っている酵母菌を殺して働きを失わせ、酒の味を安定させることです。
酒の中の酵母菌を殺しておかないと、瓶内で発酵が進んで、酒質に変化を来してしまいます。
また、火入れの温度が高すぎると酒の味の要素の有機酸などを変性させてしまい、旨みのない酒になってしまいます。そこで、微妙な温度での火入れが必要になるわけです。
その火入れの方法や時間などは、蔵によって、ちょっとずつ違うようですが,温度は60〜65℃くらいです。
1800年代半ばになってパスツールが発見した“殺菌法”に先立ち、すでに室町時代(1400年代)において、火入れが行なわれていたそうです。
火入れは、絞りたての直後と、瓶詰め(出荷)の直前の2度、行われます。
絞りたての直後のみ火入れした酒を「生詰め酒」。瓶詰め(出荷)の直前のみ火入れする酒を「生貯蔵酒」と呼ばれます。
火入れを全く行わない酒は「生酒」と言います。
火入れという技術は、現在では当たり前のことなのですが、温度計の無かった時代、つまり、明治時代以前では、門外不出の技術でした。
この技術を持っていた蔵は、伏見、灘、伊丹(いたみ)、池田などの近畿の蔵元ばかりで、実際、江戸時代中期に出版された「人気酒番付」では、上位をこれらの地方の酒が独占していました。
かつて、江戸幕府は、これらの近畿の酒、つまり、「下り酒」ばかりに酒市場を独占させてはおけないと、関東近在の蔵元を助成し、「下り酒追放」を試みますが、失敗に終わります。
その原因は、火入れの技術でした。
味質の良い酒を醸すことはできたのですが、それを江戸に持ち込んだときには味質が劣化し、全く売れなかったという顛末でした。
それほど、「火入れ」は重要な技術だったわけです。
- 熟成
日本酒は古来から「できたて・しぼりたてほど、香りも味もよい」とされてきました。
しかし最近では日本酒も,ワインやウィスキーと同じように場合によっては少し寝かせたほうがうまくなる、と考えられています。
お酒は醪(もろみ)を搾ったあと、「火入れ」といって、加熱殺菌が行われてから貯蔵タンクに移され、そこでしばらくの間、熟成されることになります。
火入れすることにより、酵母はもちろん、各種酵素の働きを止める−−つまり、そこで品質を固定してしまうわけですが、お酒は不思議なことに、そのあとでも貯蔵タンクの中で変化していくのです。
その変化を熟成といっているわけですが、熟成というのは「分子と分子が結合を始める(一種のコロイド状のものをつくる)こと」なのです。
これをわかりやすくいうと、「アルコール分子の周りを、水が包み込む状態」に、徐々になっていくということです。
お酒は、できた当初は様々な旨味成分とアルコール分、そして水がバラバラに存在しているのですが、時間の経過とともにそれらが少しずつ手を取り合って、いつしかアルコール分子の周りを取り囲むようになるのです。
これが熟成というもので、そういう状態になると、口にそのお酒を入れたとき、直接アルコールを感じる前に、 周りを囲んでいる水や旨味成分の分子を先に察知するため、まろやかに感じるわけです(アルコールは、ピリピリ感じます)。
こうした状態になるには、最低でも半年という時間が必要で、特に吟醸酒のような低温仕込みて造られたお酒は1〜2年はどうしても寝かせなければならないのです。
全国およそ170社の蔵元が「長期熟成酒」と呼ぶ、寝かした日本酒を製造発売しています。
長期熟成酒を造っている蔵元が約60社ほど集まって発足させた「長期熟成酒研究会」によると、通常日本酒を長期間おくと味や香りが劣化して、俗に言う「ヒネ」という現象がおこります。
しかし、一定のヒネ期間を越えると、今度は突然味や香りがまろやかになってくるそうです。
つまり、できたては少し硬い味の日本酒を最低3年ほど寝かせるだけで、味はまろやか、香りはふくいくたる吟醸酒クラスのお酒に変身するわけです。
また、この寝かせるとき、温度によっては熟成後の風味に違いが出るといいます。
低温で寝かせると淡く、常温では濃く仕上がるそうです。
- 古酒
清酒は通常しぼりから約1年の間に消費されますが、これを長期貯蔵するとまた違った風味が生まれてきます。
もちろん、そのためには様様な条件を整えなくてはいけません。
特に直射日光と空気との接触を避け、低温かつ一定した温度で管理する必要があります。
古酒の風味の特徴としては新酒のフレッシュな香りがかぐわしさを増し、しぼりたての荒々しさが丸みを帯びてまろやかで重厚な味に、そして色も透明から褐色、ルビー色へと変化することが挙げられます。
日本酒の種類によっても熟成度は違い、純米酒や本醸造は濃熟型、米を高精白した大吟醸は淡熟型になるのが一般的です。
古酒も熟成年数によって生き物のように変化を続けています。
日本酒造組合中央会の表示に関する自主規制によると,3年以上熟成させた酒を古酒といい、5年以上の長期貯蔵酒を「秘蔵酒」といいます。
ところで,米の違いは何年も寝かせることにより、如実にその性格があらわれると言います。
新酒の時は、米の違いより、造りによる出来不出来が勝ってしまって見えないものが、古酒になると見えてくるそうです。
山田錦は10年たってもたくましく、折ると中身がまだ青々としている。
雄町は、枯れてしなやかになり、八反錦は、枯れ方が最も顕著で、軽く好々爺のような、なで肩のキャラクターになってしまうそうです。
- 寒造り
大手メーカーでは、一年を通して造っていて、これを四季醸造とか長期醸造、あるいは通年醸造と呼んでいます。
しかし、お酒を造るのに適した時季は、やはり寒くなってからで、通常はだいたい10月から翌年の3月ぐらいまでとなっています。
これは、"寒の水は腐らない"といったことなど、酒造りの条件が理想的に揃うからです。
具体的には,寒さは雑菌の繁殖を防ぐ。麹菌や酵母菌にとって活動しやすい条件が整うと言った事の他,日本酒は併行複醗酵により,麹による糖化と酵母による醗酵がもろみの中で同時併行的に進んでゆきます。
そのため,もろみ管理が重要で杜氏が神経を使うところです。
この時の醗酵熱を抑えながら調節するので寒いほうがやり易いと言う事が有ります。
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